パーフェクト序列



FXは根本的に、「投資」ではなく「投機」である。まず、FXが開発された背景から説明しよう。
株式相場と違って、為替相場は1日あたりのボラティリティ(変動率)が非常に低い。株式市場で設けられているストップ高などの値幅制限が為替相場にはないことからも、自明である。ドル/円やユーロ/円などのメジャー通貨ペアを24時間取引しても、値動き幅はせいぜい1.5~2%程度だろう。そこで、値動きの少ない為替相場でも大きく儲けられるように「レバレッジ」を適用するFXという金融商品が1980年代にロンドンで開発されたのだ。
為替取引において、原資産が生み出す付加価値は、ないに等しい。このため、為替取引は「投機」といって過言ではない。だからこそ、FXではファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析は通用しない。為替とは、2国間の通貨の交換関係にすぎない。したがって、将来的な国の成長余地を考えてもほとんど意味がない。たとえば、米国の成長が期待できるから米ドルを買って運用するという発想は、FX取引においては間違っているといえる。為替相場において、将来確実なことは何もない。つまり、FXはテクニカル分析なしでは語れないのである。
そのテクニカル分析にも、取引の根拠となるものと、予測のシナリオを立てるためのものの2種類がある。この2つを混同してはならない。相場のサイクル論などはあくまでシナリオを立てるための分析であり、取引の根拠にはならない。個人投資家は取引用のテクニカル分析を、より勉強すべきなのである。
実際の取引では、確実な売買ポイントがチャートから見えてこない限りは、自分が描いたシナリオがいくら素晴らしくても取引しないのが基本である。実際、私自身が取引する際も、自分が以前に書いたシナリオを無視することもある。取引の根拠と勘違いして、シナリオに基づいて取引するとケガの素だ。

世にテクニカル分析は数あれど、すべてのテクニカル分析がすべての相場に通用するわけではない。

たとえば、株式のテクニカル分析に、移動平均線を用いる「グランビルの法則」というものがある(左図)。売買タイミングを判断する8つの法則があるが、この中でもFX取引では通用しない法則が2つある。

それは、下降トレンドにおいてレートが中長期移動平均線と大きく乖離していた場合に買いに入る法則(法則7)と、上昇トレンドにおいてレートと中長期移動平均線の乖離が大きい場合に売りを仕掛ける法則(法則8)だ。どちらも、一方向に動きすぎたレートの短期的なリバウンドを狙う手法である。

しかし、為替相場は一方向の強いトレンドが発生しやすい特徴があり、いったん移動平均線から乖離すると、さらにかけ離れていく傾向が強い。どのくらいの乖離で仕掛ければよいのかは曖昧で、勘や経験則に頼りすぎると手痛い損失を被りかねないので要注意である。


それでは、取引の根拠とは何か。それは、チャートのシグナルに基づく「トレンドフォロー」である。
為替取引で成功するための大原則は「トレンドがある時に、高値になったら買う、安値になったら売る」だ。なぜならば、為替レートは通貨ペアの交換バランスによって動くからだ。一方の通貨の買い手は同時にもう一方の通貨の売り手なのである。ドル/円のペアならば、「ドル買い=円売り」となり、決済した瞬間に自然と反対に動く構造になっている。
ドル/円の上昇トレンドを例に説明すると、ドルが上昇すればするほど円の買い手(ドルの売り手)の損失は膨らむ一方になり、多くの投資家が損失を食い止めるために投げ売りという行動に出るだろう。実際には、円の買い手が設定していたストップロス・オーダー(損切り指値)が執行され、自動的にドル買い、円売りが行なわれる。最初の損切り注文の発生がトレンドをさらに進め、次の損切りを引き起こすというロスカットの連鎖を招くのである。
要するに、為替相場での激しい上昇、あるいは急落の局面での著しい一方通行の値動きは、トレンドの継続を見込んだ新規参入の買い手や売り手による取引がもたらす結果というよりも、トレンドの逆ポジションを持っている投資家の損切りが大きな原因になるケースが多い。このような構造から、為替の値動きは一方向に大きく動きやすいのだ。
以上の為替相場の構造の原則を理解しておかなければ、どんなにテクニカル分析を勉強しても意味がない。初心者がFX取引でなぜ失敗しやすいのかというと、値頃感で判断し、高くなったら売りたがり、安くなったら買いたがるからである。この手法は、株式取引では多少通用するかもしれないが、為替ではまったく通じない。為替相場において「逆張り」が通用するのは、もち合い相場の時だけだ。ただし、逆張りが成功しても、もち合い相場では大きな利益を出しにくい。
極端にいってしまえば、FXでは「順張り」用に、トレンドの有無を見極めるテクニカル分析をマスターすればよいのである。通貨の「買われすぎ、売られすぎ」を検証するオシレーター系の指標を最初から覚える必要はない。また、トレンドを見極める基礎的なテクニカルの知識もなく、難解な予測シナリオ用のテクニカル分析を勉強してしまうと、シナリオが正しいと思い込む弊害が生じて、損失拡大を招く恐れがある。勉強家の個人投資家ほど陥りやすい盲点なので、気をつけてほしい。


相場にトレンドがあるかないかを簡単に見極められるのが、移動平均線(MA)である。今回紹介するのは「パーフェクト序列」戦略。移動平均線の配置と序列に基づくストラテジーで、トレンドの発生、進行をうまく捉えることができる。
まず、時間設定を変えた、短期から長期にわたる複数の移動平均線をチャート上に表示する。これらがすべて同じ上昇方向で、「20MA>55MA>100MA>200MA」のように序列どおりに並んでいる時は、上昇トレンドにあると判断できる(実践図解1参照)。逆に、短期から長期にわたる複数の移動平均線がすべて同じ下落方向で、「20MA<55MA<100MA<200MA」といった序列が成立している時は、下降トレンドにあると見てよい(実践図解2参照)。

時間設定を変えた複数の移動平均線(MA)の並びでトレンドの有無は判断できる。短期から長期までの移動平均線がすべて上向きで、短期線が長期線をすべて上回っているようなら、上昇トレンド。逆にすべての移動平均線が下向きで、短期線が長期線をすべて下回っていれば、下降トレンドとわかる。この手法は、日足、時間足、分足など、どんなチャートでも通用する。

【買いエントリー条件】

1.20MAより高値に位置したところで、直近高値の更新時。

2.各移動平均線が「20MA>55MA>100MA>200MA」 の序列に並ぶ。

3.すべてのMA線が上向き、お互い乖離を拡大していく状況なら、なおよい。

【決済条件】

●20MAが55MAを上から下にクロスした時。

ただし、時には同シグナルを待っていると、すでに急落して いる可能性もあるため、「55MA線より30pipsを下げたら決済」など、フィルターをかけておくのもよい。

【売りエントリー条件】

1.5MAより安値に位置したところで、直近安値の更新時。

2.各移動平均線が「5MA<20MA<55MA<100MA<200MA」の序列に並ぶ。

3.すべてのMA線が下向き、お互いに乖離を拡大していく状況なら、なおよい。

【決済条件】

●5MAが55MAを下から上にクロスした時。

ただし、このチャートのケースでは、まだ決済されておらず、最大5835pipsの利益を有している。


こうしたトレンドが発生していたら、あとは高値(安値)を更新した時にエントリーをすればよいだけである。エントリーの条件は実践図解の中で説明しているが、これらの条件すべてが合致しない時は取引をせず、ただ相場の動きを見るだけにすることが重要なポイントだ。初心者ほど見ているだけでは我慢できずに、クリックして取引に参加したくなる衝動に駆られやすいが、実はプロほどエントリーの条件がすべて揃うまでじっと待っているのである。
これらを守れば、私の経験上、10回の取引のうち少なくとも6~7回は成功する。もしも反対方向に進んだ時は、損切りをすればよいだけだ。
もうひとつ、トレンドの有無を判断するためには、基礎中の基礎であるトレンドラインの引き方も覚えてほしい。私が抵抗線や支持線などのトレンドラインを引く時は、必ず右(直近)から左(過去)に引いている。理由は、過去の値動きよりも直近の値動きがより重要だからだ。ささやかなテクニックだが、よいタイミングを教えてくれることも多い。日本ではあまり知られていないようだが、海外では常識的なやり方である。


最後に必要となるのが出口戦略である。大きくわけて、リスクコントロールによるものと、テクニカル分析によるものの、2つの出口戦略があるが、大切なのは前者だ。1回の取引ごとに元本に対する利益と損失額(損失率)を必ず計算しておく必要がある。
たとえば、1回の取引で20%の損失を出すと、元に戻すのに、残った資金から25%の利益を出すことが必要になる。もし、1回の取引で元本の30%もの損失を出せば、次の取引で42.9%のパフォーマンスを達成しなければ元本の回復はできない。損失を取り戻すのはそれほど難しいのだ。個人投資家の中には1回の取引で30%の損失を平気で抱え込む人が少なくないが、それは尋常ではないことを認識してほしい。
為替取引でも株式取引でも、プロのトレーダーやディーラーは1回の取引における利益と損失額を元本の2%以下に抑えている。個人投資家の場合、たとえ投資金額自体が少なくても、それに近い水準の3~4%以下にとどめておくべきだ。そうすれば損失を出しても、心理的なダメージは小さく、次で取り戻せるという精神力と判断力を維持できるだろう。
テクニカル分析による出口戦略については、明確なトレードのルールを守って対応すればよい。トレンド転換のシグナルが出てこない限り、トレンドフォローに徹して利益をできるだけ伸ばしていくのが原則である。ただ、利益を大きく伸ばすのはプロでも困難。まずはリスクコントロールから実践し、ぜひともマスターしてほしい。
私はこれらの自分のやり方で、実際に儲けを出してきた。儲かる方法ほどシンプルでわかりやすく、誰にでも勉強できるのが為替取引のよいところである。まとめると、1,トレンドがある時にのみエントリーし、2,高くなれば買い、3,安くなれば売る。この3つだけでもきちんと実践できれば、FXでの勝利は難しくない。

「マネーポスト」2009年5月号に掲